9/13 解説記事を全面改訂し、大幅にデータ・出典を充実させました。図に掲載したデータ以外にも多数のデータを掲載したので参考にしてください。
9/16 「その他の論点」として、「アフラトキシンの毒性の評価」以外に、事故米中のアフラトキシンの偏りなど、関連する論点を取り上げました。
三笠フーズの汚染米騒動でアフラトキシンの毒性が話題です。動物実験でアフラトキシンが実験動物の100%に肝臓がんを引き起こすという実験データが話題になり、ここから、「100%肝臓がん」という言葉が一人歩きしている面もあるからです。
では、アフラトキシンはどのくらいの濃度でどのくらいの毒性をもたらすのでしょうか?ネット上で手に入るリソースをもとに、アフラトキシンの毒性を検討してみました。実は、この記事を書くに当たって、「どうせそんな毒性があるわけないだろう」という先入観を持って調べたのですが、実際に調べたみたら、解釈によってはかなり危険とも言える分かりました。何よりすみやかな詳細な調査と情報の公開が必要ではないかと思います。
結論を先に言うと、
1.事故米を米飯として毎日食べると、ラットがかなりの確率で肝臓がんになると言われる量を摂取することになる
2.年に数回のペースで事故米に汚染された米菓(せいべい、おかき等)を食べるだけでも、健常人10万人中あたり0.01人、B型、C型肝炎キャリア10万人あたり0.3人が肝臓がんになると言われる量を超えてしまう。
3.多くの人が、1と2の中間の量の事故米を摂取していると思われるが、その影響は未知数。ただ、かなりの影響を及ぼしている可能性がある。
図にすると以下のようになります。計算方法、情報の出典は、図の後に詳しく説明しているので、そちらをご覧ください。
携帯用画像(240x320, gif)
拡大縮小用画像( swf, svgz, emf, png)
携帯で画像が乱れる場合は「携帯用画像」をご覧ください。拡大縮小用画像は、引用時にご利用ください。(emfは200%以上の拡大用、pngは200%以下の拡大用。)
改訂の際、図のURLを変更することがあるので、図への直リンクはお避けください。
解説
○事故米のアフラトキシン濃度(農水省)
まず、本題に入る前に、今回の事故米のアフラトキシンの濃度を確認しておきます。農水省の発表によると、アフラトキシンの濃度は、0.01ppm~0.05ppm(10ppb~50ppb)ということになっています。(http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/pdf/080905_2-01.pdf)
60kgの体重のヒトだとすると、
一日の摂取量を300g(米飯の場合)とすると、0.05~0.25μg/kg/日
一日の摂取量を30g(頻繁に米菓を食べた場合)とすると、0.005~0.025μg/kg/日
一日の摂取量を3g(月一回程度米菓を食べた場合)とすると、0.0005~0.0025μg/kg/日
一日の摂取量を0.3g(年一回程度米菓を食べた場合)とすると、0.00005~0.00025μg/kg/日
となります。
ただし、この計算は、事故米のアフラトキシン濃度が農水省の発表の通りであり、均一に汚染されているということを前提にしています。つまり、事故米のある部分にアフラトキシンの濃度が特別高い部分があれば、局所的にこの数倍、あるいは数十倍の濃度で汚染されている可能性もあります。逆に、農水省が測定した場所が、たまたま濃度が低かっただけという可能性もあります。
○急性毒性
毒性には、いくつかの種類があり、これは分けて考えないといけません。まず、重要なのが急性毒性と慢性毒性の違いです。急性毒性は、ある時点でその毒物を摂取したときの毒性、慢性毒性は長期間にわたってその毒物を摂取したときの毒性です。
急性毒性に関して、アフラトキシンは、それほど強くなく、メタミドホスとそれほど変わりません。LD50(半分が死ぬ濃度)動物実験の結果で0.3mg/kg(ウサギ)~17.9mg/kg(ラット)ということになっています。これは体重60kgで20mg~1000mg相当します。(1日当たりではなく、一度に摂取する量ということに注意してください)。これはもっとも高い濃度のアフラトキシンに汚染された汚染米で計算しても、20t~1000tです。これを短期間に食べたときの毒性が急性毒性ですので、これに関しては、基本的に心配しなくて良いということが分かります。(Newberne and Butler 1969(Review): http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/29/1/236.pdf)
○慢性毒性
一方、問題なのが「慢性毒性」です。アフラトキシンの慢性毒性は、肝臓がんを引き起こすものだということが分かっています。では、アフラトキシンの慢性毒性はどの程度なのでしょうか。これを調べるには、大きく二つの方法があります。一つは実験室で実験動物に毒物を与えて調べる方法、もう一つは複数の地域での統計的調査)で測定された毒性です。
この二つは多くの場合、かなり異なるデータになります。ただ、それぞれ長所と短所があるため、この両方から毒性の評価がなされることに注意する必要があります。
○動物実験での慢性毒性
・Woganand and Newberne 1967
アフラトキシンの毒性に関してもっとも有名なのは、15ppbで100%のラットを肝臓がんにするというデータでしょう。この実験は、ラットに68~82週間、15ppbのアフラトキシンを含む餌を与えたところ100%(23匹中23匹)に肝臓がんが見られたというものです。(Woganand and Newberne 1967:データは以下の総説を参照http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/29/1/236.pdfのTable 3)
このデータは飼料中のアフラトキシン濃度を基準にした結果ですが、すべてのラットが肝臓がんになるという15ppbは、事故米中のアフラトキシン濃度とほぼ同じレベルです。つまり、ラットが事故米を食べ続けると100%の割合で肝臓がんになることを意味します。
通常、毒性の度合いを測るときには、TD50といって、実験動物の半数に毒性が発現する(この場合は肝臓がんになる)量を見積もるのですが、この実験ではアフラトキシンの毒性が強すぎて、TD50を測定することができなかったということが分かります。つまり、この条件でのTD50は15ppbよりもはるかに少ない可能性があるということです。この実験結果こそが、アフラトキシンが「地上最強の発がん性物質」と言われるゆえんでもあります。
現代では、飼料中の濃度ではなく、1日あたりの摂取量(μg/day/kg)をもとに毒性を記述することが多いので、換算すると、ラットが摂取する飼料の量12.5g/day、ラットの体重を300gとして0.63μg/kg/dayになります。
・Butler and Barnes(1968)
一方、精製したアフラトキシンではなく、汚染された食物そのものを与えるという、上の実験とは違う条件では、TD50が200ppb(200ppbの飼料を与え続けると半数が肝臓がんになる)ということが分かりました。(Butler and Barnes 1968:データは以下の総説を参照http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/29/1/236.pdfのTable 3)
これは、同じアフラトキシンでも、餌の条件を変えると大幅に毒性が変わることを示しています。人間の場合、食べ合わせの影響でアフラトキシンの影響が変わるということです。
・バークレー大学発がん性データベース
一方、バークレー大学の発がん性データベースによると、以下のような結果になります。
ラット:3.2μg/kg/day
マウス:(実験した濃度では発がん性が観察されなかった)
アカゲザル:8.2μg/kg/day
CYNOMULGUS猿:20.1μg/kg/day
ツパイ:26.9μg/kg/day
(http://potency.berkeley.edu/chempages/AFLATOXIN%20B1.html)
このことから、動物の種類によって10倍程度の差があるということが分かります。ただ、比較的人に近いと思われるアカゲザルでも、ラットに近い結果が出ていることから、「ヒトでは安心」ということにはならないでしょう。
ちなみに、ラットの結果に関しては、Woganand and Newberneの結果より、5倍以上毒性が少なく見積もられていますが、Butler and Barnesの結果とは同程度です。これには飼料の種類の違い、ラットの系統の違いなどが関係していると思われます。
・未確認情報
一部にラットが1ppb、104週間でも肝臓がんになるという噂があるのですが、情報源は2ちゃんねる等だけであり、この根拠となるデータは一切見つかりませんでした。1ppb、104weekでのラットでのデータとしては以下のものがあるのですが、アブストラクトを見る限り、「通常と変わらない」と書いてあります。本文を読まないと、肝臓がんを引き起こすか分からないのですが、検索した感じだと「ガセ」という可能性の方が高そうです。
http://www.springerlink.com/content/g31780u23g2013j2/
・動物実験の解釈について
発がんメカニズムはヒトとヒト以外の動物で基本的に同一であり、種や系統によって特殊な状況があるにしても、多くの種で一定レベルの毒性が見られれば、基本的にヒトでも同じレベルの毒性があると考えるのが毒性評価の基本的な考え方です。ただ、あくまでヒトでの実験ではないので、このままヒトに当てはまるわけではないということは考慮しないといけません。
○疫学調査での慢性毒性
・Peers & Linsell 1977
コメントをいただいたNATROMさんの情報から、IPCSで公表されている疫学調査の結果にたどり着くことができました。ここでは、Peers & Linsellの論文の引用として以下のようなデータが掲載されています。
これは、さまざまな地域で、実際に皿に盛られて出されようとしている状態の食事をサンプルとして集め、それと統計的に分かっている肝臓がんの人数を比較したものです。
Table 15. アフラトキシンの摂取レベルと原発性肝臓がんの発生数について入手可能なデータのまとめ(注a)
| 国 |
地域 |
アフラトキシン推定平均一日成人摂取量(ng/day/kg)(注b) |
肝臓がんの登録数 |
10万人当たりの肝臓がん発生数 |
| Kenya |
High altitude |
3.5 |
4 |
1.2 |
| Thailand |
Songkhla |
5 |
2 |
2 |
| Swaziland |
High veld |
5.1 |
11 |
2.2 |
| Kenya |
Middle altitude |
5.9 |
33 |
2.5 |
| Swaziland |
Mid veld |
8.9 |
29 |
3.8 |
| Kenya |
Low altitude |
10 |
49 |
4 |
| Swaziland |
Lebombo |
15.4 |
4 |
4.3 |
| Thailand |
Ratburi |
45 |
6 |
6 |
| Swaziland |
Low veld |
43.1 |
42 |
9.2 |
| Mozambique |
Inhambane(注c) |
222.1 |
(注d) |
13 |
注a Peers & Linsell (1977)による
注b 地域のビール?(native beers)に含まれるアフラトキシンは含まれていない。
注c 改訂された発生数の推定。Van Rensburg (1977)による。
注d 不明。ただし、100以上と思われる。
http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc011.htm
このデータのうち、3ng/day/kg~10ng/day/kgはほぼ線形(アフラトキシンが2倍になれば肝臓がんの割合も2倍)で、計算すると、1ng/day/kgで、10万人あたり1年に0.4人が肝臓がんになるということが分かります。
一方、1件ですが、100ng/day/kgを超えるというモザンビークデータもあります。もしこのデータがそのまま日本に当てはまるのなら、事故米を食べ続けても10万人当たり13人しか肝臓がんにならないということですから、事故米の量(10t程度)を考慮すると「大したことがない」ということになると思います。
これは上の動物実験のデータよりも数万倍レベルで毒性が少なく見積もられていることになります。
ただ、100ngを超すのは1件のみであるため、統計的な信憑性はそれほど高くありません。したがって、これだけをもとに毒性を判断してはいけないという問題があります。
また、疫学調査であることに起因する、さまざまな問題があります。たとえば、実際には、これよりもずっと多い肝臓がんが発生しているのに、医療制度、特に疾病統計が未発達だったりするためにカウントされていないとい可能性も考えられるからです。実験動物ではすべての動物を解剖しているので確実にがんになったおいう判断ができるわけですが、疾病統計で同レベルで肝臓がんを見つけることが不可能です。また、複数の発がん性物質の組み合わせによる、肝臓がん以外のがんに対するリスクがが全く計算できていないという問題もあります。
さらに、同じ毒物でも寿命が長い日本では、より大きな影響を与えるという可能性、伝統的にアフラトキシンが食べて来なかった日本人と、古くからアフラトキシンと関わってきた民族では、遺伝的な耐性が異なる可能性もあります。
・JECFA
さて、上の疫学調査の結果はかなり古いものであり、B型/C型肝炎キャリアの計算がうまくできていないという問題もあります。こういったことを踏まえて出されたのが、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)によるリスク評価です。
結論としては、体重1kg当たり1日1ngの摂取(体重60kgで0.06μg)で、アフラトキシン原発性肝臓がんになるリスクが健常人10万中0.01人、B型/C型肝炎キャリアで0.3人ということになっています。現在、aflatoxinの規制値を設定する上では、このデータが採用されているようです。
この原典となる資料はかつてネット上にあったようなのですが、リンクが切れてしまっていて、解説を頼りにするしかありません。内容の説明としては、このサイト(http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak140_136.html)が詳しく、途中の図に関しては、こちら(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0311-5h_0001.pdf)が見やすくなっています。
このデータ、今回の汚染米の問題に無理矢理当てはめると、毎日アフラトキシン汚染米を食べていた人でも、10万人中3人程度が肝臓がんになるだけということになります。
ただし、今回の汚染米の問題のような非常に高濃度(1μg/day/kgレベル)まで、このデータが当てはまめられるかどうかは分かりません。Peers & Linsell 1977の場合は、モザンビークのデータが(1件だけですが)ありましたが、JECFAの場合、どの程度の範囲で調査をしたのか分からないからです。これについては、JECFAのデータの原典を当たって検討する必要がありますが、そこまで考慮されている可能性はかなり低いと言わざるを得ないでしょう。
また、上でも書いたような疫学調査の不正確さという問題は同じなので、そのことも考慮する必要があります。
○動物実験と疫学調査の違いをどう解釈するか
さて、このように見てくるとaflatoxinの毒性を考える上では、実験室での結果と疫学調査の結果があまりにも違うため、どう判断していけば良いのか迷う人もいるでしょう。
現実には「あまりにも厳しすぎる」実験室の結果ではなく、疫学調査の結果が強調された議論がなされることも多いようです。たしかに疫学調査には、前述したとおり、疾病統計そのものの問題や地域間の遺伝子の違い等、さまざまな要因があり、そのまま信用することができないのも事実ですが、それを踏まえても疫学調査の方が現実に近いと思われるからです。
ただ、動物実験の結果を無視して良いということにはなりません。食品規制も「検出されたら破棄」という非常に厳しい規制になっているのもそのためです。
さらに、今回の事故米の問題に関して言うと、事故米を毎日米飯として食べたような場合、疫学調査の結果がそのまま適用できるかどうか全く分かりません。その意味で、「15ppbで100%のラットが肝臓がんになる」というような動物実験の結果も同時に参考にしてくのが正しいと思われます。
やってはいけないのは、動物実験の結果と疫学調査の結果を単純に比較して、「疫学調査はヒトでの結果だから、より信頼できる」と断定することでしょう。2つの実験は、お互いに補完関係にあるものですので、それぞれの長所と短所を理解しつつ、総合的に判断していくことが必要だと思います。
(参考)動物実験の結果を無視し、疫学調査だけをもとにして事故米問題について評価したブログ
事故米のアフラトキシンによる肝癌のリスクを大雑把に計算してみた/NATROMの日記
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080910
○その他の論点(出典不明の情報を含む)
・ロット中の偏りというリスク
カビ毒はロットの一部に偏りやすい性質があるので、全体の平均の1000倍レベルのアフラトキシンが含まれる可能性があるようです。さらに、測定した場所が「たまたま比較的アフラトキシンがそれほど多くない場所」だったという可能性もあります。極端な例を出すと、測定値が50ppbだとしても、その近くに50,000ppb(500ppm)レベルの超高濃度のアフラトキシンを含む塊があり、そこから漏れて出てくるわずかの部分だけを測定しているという可能性だってあるのです。
こうなると、状況によってはお茶碗1杯でも致死量、あるいはかなりの確率で肝臓がんになる量を食べることになる可能性があります。それも考慮して「検出されたら食用にはしない」というルールになっているわけなので、検出値だけをもとに安心かどうかを判断してはいけないというもあるようです。
・飼料用穀物について
飼料用に使われた焼酎かすがアフラトキシンを含んでいることを心配する声があるようです。また、アフラトキシン汚染米そのものの飼料用への転用を心配する声もあります。この心配そのものは間違っているわけではないと思うのですが、飼料用穀物の場合、事故米と比べものにならないほど大きなアフラトキシン汚染の問題があり、それに比べるとほとんど問題ではないとも言えます。
なぜなら、飼料用輸入トウモロコシのアフラトキシンは、もともと無規制状態であり、すでに問題になっているようだからです。300ppbレベルでも普通に飼料として使われているという話もあります。
焼酎かすとして飼料に使われる汚染米のアフラトキシンの影響は未知数ですが、最大限に見積もっても、飼料用輸入トウモロコシのアフラトキシンというもっと大きな問題からすれば、微々たるものであることは間違いないでしょう。
さらに言うと、三笠フーズの事故米のアフラトキシンを心配するくらいなら、飼料用輸入トウモロコシ経由でアフラトキシンに汚染されている肉や牛乳のアフラトキシンを心配した方が良いという見方もあるようです。これは事故米のアフラトキシンが問題ないということを意味するのではなく、「両方とも大きな問題だが、比較すると事故米の方が問題の程度が少ない」ということです。
○余談
にんじんなどのセリ科の野菜にアフラトキシンの発がん性の抑制効果があるらしいです。
University of Washington, Apiaceous vegetable constituents inhibit human cytochrome P-450 1A2 (hCYP1A2) activity and hCYP1A2-mediated mutagenicity of aflatoxin B1., 2006 Sep;44(9):1474-84. (PMID 16762476)
論文は孫引きですが、英語版のWikipediaで見つけました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Aflatoxin
上にリンクを張った総説記事では、飼料の種類によって10倍以上の毒性の違いがあることが示唆されていますが、それに類する効果は期待できる可能性があります。まぁ、もとの毒性が強すぎて10倍くらいじゃ大して変わらないかもしれませんが…。
○改訂履歴(大きなもののみ)
画像に間違いが含まれていたため訂正(9/11 2:16)
本文を全面改訂(9/13 4:10)
その他の論点を追加(9/16 0:49)