経済・政治・国際 | 2010/08/02
私が今回、敢えて自分のプライベートなことまで書いたのは、週刊誌の取材に大変迷惑しているからです。公人である私自身への取材であれば全く構いません。しかし、記者たちは、交際中の彼女の実家のみならず、彼女の親戚の自宅や会社にまで押し掛けています。
取材は元妻にも及んでいます。元妻が「私達は離婚もしていますし、一般人なので取材はご勘弁下さい」と話をしても、執拗に夜遅い時間まで何度となく記者たちが家を訪れ、ドアのベルを押し続けたり、大声で騒いだりするため、小学生の娘は泣いて怯え、外に出たくないと引きこもり気味になってしまっています(あまりにもしつこいため何度か警察にも助けを求めているようです)。さらには、玄関先で騒いだ後、元妻の家の近所を回って、内情を話しながら聞き込み(?)をしているとのこと。もともとご近所の方々が家庭内の事情など知る由もありません。取材を受けてもらえない腹いせから意図的に悪い風評を広げているとしか思えません。
以前、政治家のスキャンダルを専門とするライターと話したことがあった。彼は、「スキャンダルにこそ政治の本質がある」と信じていて、それを公言していた。自分が彼に言ったのが、「そういうマスコミの姿勢が、国民の目を政治の本質から背けてさせているのではないか。能力のある人を退場させ、能力のない人を生き残らせることになっているのではないか」ということ。それに対して、彼は自分の主張を繰り返すばかりで、話がいっこうに噛み合わなかった。残念ながら、その人は切れてしまい、話はそれで終わりになったのだけれど、もう少し、うまく話を持っていって彼の職業意識について聞き出せれば良かったと思う。
さて、参院選で東京選挙区から当選した、みんなの党の松田公太氏のプライベートを雑誌記者が嗅ぎ回っており、それで元妻や交際相手が迷惑をしている…という話を松田公太氏がブログに書いて話題になっている。読んでもらえれば分かると思うが、これは正直怒りを覚える。
一般的なことを言うと、報道の自由と取材対象のプライバシー権の折り合いをどう付けていくかというのは、かなり難しい問題ではある。社会的に重要な問題を明らかにするために、家族や職場を取材をしなければいけない場合もあるし、それを制限すると、むしろ国民が権力の横暴を監視できない場合もあるだろう。だから、権力が報道の自由を制限するのは最小限にしなければいけない。社会はさまざまなコストを負担してまで、報道の自由を守らなければいけないのだ。これは、民主主義の社会における原理原則の一つである。
たしかに、松田氏のプライベートの報道には、多くの人にとってメリットがないだろう。政治家のプライベートを知ってほくそ笑む、根性の汚い人間を喜ばせることにはなるだろうが、それだけのことである。社会の不正を正したり、改善したりする意味は全くない。しかし、こういった報道であっても、報道の自由を尊重することは、ある意味仕方がない。こういった事例だけを取り締まることができれば良いが、その線引きが非常に難しいからである。
では、どうすれば良いか。自分は「読者の意識が変わればマスコミが変わる」というような意見は、問題を本質から逸らしているような気がして、手放しに賛成できないと思うことも多いのだが、ことに「報道の自由」に関する限り、これしか方法がないのかもしれない。マスコミが政治家のプライベートを追いかけることを止めるには、読者が政治家のプライベートに関心を持たなければ良いのである。具体的には、そういったニュースが掲載された雑誌を買わない、ネットで記事を見つけてもクリックしないということだ。前回の衆院選後は、何人かの民主党の議員の不倫疑惑がニュースとしてもてはやされたし、自民党政権時代には、山拓を始め多くセックススキャンダルが週刊誌を賑わした。ムラ意識が強い日本では、そのことに疑問すら抱かない人が多いようだが、そうした観点で政治家を見るということ自体、政治を荒廃させる原因。国民がそういう意識を共有することが重要なのである。
ただ、これはそんなに単純な問題でもない。西欧の先進国では、「政治家のプライベートに関心を持つことは恥ずかしい」という意識がそれなりにあり、セックススキャンダルをつけ回したりしないのがメディアのモラルになっている。ただ、そういう国でも、全てのメディアがその規範にしたがって行動しているわけではないので、独立系のライターによるいわゆる「パパラッチ」行為は盛んだ。政治に関心が高い層が、どんなに「政治家のプライベートに関心を持たない」としても、それを全国民に浸透させるのは不可能なのだ。
報道の自由とプライバシーの問題は、民主主義の社会が共通して直面する難問の一つであり、あっと驚くような解決策はない。ただ、こうして松田公太氏の問題が注目されていることは、今後の健全なネット社会の発展に重要な意味を持っている気がする。
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