GoogleとYahoo! Japanの提携は民主主義の危機だ

ニュース/パソコン・インターネット/経済・政治・国際 | 2010/07/31

発表によると、ヤフー・ジャパンは、年内にも検索サービスの基本技術である検索エンジンをこれまでの米国ヤフー製からグーグル製に切り替え、同時に、検索サービスと連動したネット広告(検索連動広告)のシステムについてもグーグル製を採用するようである。
(中略)
しかし、今回の提携により、日本の検索サービスの90%がグーグルの技術に支配されることになる。検索は、ネット上の情報流通を牛耳るプラットフォーム・レイヤーの中核となるサービスであることを考えると、欧米と同様に、日本のネットのプラットフォーム・レイヤーも事実上グーグルに支配されることになるのである。

ヤフー・グーグル提携を独禁法上“問題なし”とする日本の危うい感覚と二つの重要な論点

Yahoo! JapanがGoogleと提携し、Yahoo! Japanの検索結果にもGoogleのエンジンが使われるようになるらしい。私は検索にはほとんどGoogleを使う、典型的な「Google派」だ。それに、このブログはGoogleの検索に対して最適化されているので、ブログへのアクセス数の増加も期待できる。単純に考えれば祝杯を上げても良さそうなこのニュースに、私はとても憂鬱なのだ。

◎市場の寡占

Yahoo! JapanとGoogleの提携は、伝統的な独占禁止法政策の立場から言っても、ひどい寡占をもたらすものだ。そもそもGoogleはネット広告市場で「一人勝ち」の状態で、他の寄せ付けない強さがある。そこに2番手であるYahoo!が提携したら、他は太刀打ちできなくなるだろう。Googleは広告料をオークションで決めているとして擁護する意見があるが、そんなのは詭弁にほかならない。広告料の決定プロセスはGoogleが握っているし、手数料率の決定権もGoogleが握っている。公的機関でもなく、まして外国企業であるGoogleは、東京証券取引所ではなく、(バイク中古販売大手の)ガリバーや、(中古書店大手の)ブックオフ程度の公共性しか持っていないのである。

このことを軽視するわけではない。ただ、それはせいぜい、トヨタと日産とホンダが合併することの問題と同じか、それより少ないものになるだろう。寡占によってGoogleが得るネット広告の手数料が高くなり、日本企業の利益がGoogleに吸い取られていったとしても、それを補う分だけ、日本人があくせく働けば良いだけの話だ。Yahoo! Japanという敵を失ったことで、Googleが日本市場向けのサービスの提供を軽視するようになるかもしれないが、それだけで日本が世界から取り残されるわけではない。いろいろ問題はあるかもしれないが、それだけで日本が潰れるような問題ではないのだ。

◎メディアの寡占

しかし、Yahoo! JapanとGoogleの提携を、こういった「市場の寡占」という観点からだけ考えるのは絶対に間違っている。なぜなら、現代の社会において、検索エンジンは言論の自由や報道の自由を保障する重要なメディアであり、インフラだからだ。Yahoo! JapanとGoogleの提携がもたらすのは「市場の寡占」だけではなく「メディアの寡占」でもあり、これは単に経済の問題にとどまらない非常に大きな問題である。

中華人民共和国でGoogleによる検索結果の検閲が問題になったことはご存じの方が多いとは思うが、日本でもヨーロッパでも同様の問題が持ち上がっている。Googleが政治的な圧力を受けて、特定のサイトを検索結果から外しているという疑いは常に拭えないのだ。それでも、今までであれば、Yahoo!やbingという対抗馬との競争があり、そのことは、Googleが政治的圧力に屈さないようにするための重要なモチベーションとなっていた。しかし、Yahoo! JapanとGoogleが提携すれば、こうしたモチベーションも失われてしまう。

たしかに、Googleは「自由」をポリシーとする企業で、差しあたり、大きな心配はないと言うかもしれない。しかし、Googleだって所詮人によって運営されている企業である以上、完璧はない。将来も今のままであり続ける保障はないし、出来心を持った不届きな社員が現れないという保障はどこにもない。いずれにせよ、日本の民主主義が、外国企業の社風とか社員の良心に支えられているという状態が好ましくないのは言うまでもないことだろう。

考えてみればいい。日本には一応、5つの系列の放送局/大手新聞社があり、彼らの間で競争が働くことで、公平な報道がなされる―ことが期待されている。実際にはそうなっていない面もあるが、マスコミは全て1社に握られている状態より、多少なりともマシな状態になっているのは間違いないだろう。Yahoo! JapanとGoogleの提携は、まさに「マスコミが1社によって独占されている」という独裁国家のような状態を作るものにほかならない。Googleがどんなに高いモラルを持ち合わせている企業だとしても、これは何としてでも避けなければいけない事態である。

◎それでも、おそらく提携は実現する

と書いてみたはものの、なんとも絶望的なことに、GoogleとYahoo! Japanの提携を差し止める方法は、ほとんどないと思う。

放送局に関しては、総務省が許認可権を握っているため、極端な寡占が起きそうになったら、官僚が阻止するだろう。一方、新聞社は、新聞紙という具体的な「モノ」を売る製造業としての側面もある企業だから、メディアの寡占=市場の寡占であり、公正取引委員会が介入しやすい。たしかに、近年、日本では、国際競争力の強化を理由に、寡占に対して甘くなる傾向が見られるが、官僚もそこまでバカではないので、既存メディアの寡占に関してはそれなりに対処することになるだろう。

しかし、GoogleとYahoo! Japanの提携に関して、政府は許認可権を持っていない。一方、検索エンジンは「無料」で提供されているものであり、公正取引委員会がこうした寡占に対処する可能性は極めて低いだろう。公正取引委員会の審査はあくまで市場の寡占がメインであり、今回のケースのようなメディアの寡占は問題になりにくいのだ。

つまり、こういうことだ。日本には「メディアの寡占」に関して包括的に対処する部署が、政府組織のどこにもないのである。そして、本来、こういう状況に対処するのは、政治の役割のはずだが、今の混乱した政治状況の中でそれが可能になるとは思う人はいないだろう。かくして、国民は、GoogleとYahoo! Japanの提携という国家の危機とも言える事態を、指を加えて見守っていくしかないのである。

何とも絶望的なストーリーだが、せめてもの救いはマイクロソフトがこの提携に反対の姿勢を見せていることだ(参考)。マイクロソフトのロビー活動によってアメリカが日本に政治的な圧力を掛けてくれれば、もしかしたらこうした流れが変わるかもしれない。日本としては何とも情けない話だが、これが現実なのだ。

ネットの自由はあくまで人間のリアルな営みの結果として存在している。そして、それは時には血生臭い、時には涙ぐましい努力の結果得られるものだということを忘れてはいけない。

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コメント

googleもアメリカ辺りで検索結果を
操作してないかって昔に訴訟を受けてた様な記憶があったので
この提携はそういう意味でも喜ばしくないですね。

初音ミクが何故か画像検索の結果から外れたなんてネタもかつてあったけれど
何か問題が発生した時に他に頼れる所が無いのはリスク分散とかの点でも……

googleの検索結果が公正なものかgoogleで本当に調べられるか、と言う意味でもマイクロソフトの様な同業他社は頑張って欲しい所です。

投稿: | 2010/08/01 16:03:20

>5つの系列の放送局/大手新聞社があり、彼らの間で競争が働くことで、公平な報道がなされる―ことが期待されている。


5系列企業で独占の上、『新規参入』が規制されているメディア業界の方が遥かに問題があります。

独占で問題なのは『市場の寡占』ではなく『参入規制』です。

MicrosoftがIBMを倒したように、そしてMicrosoftがGoogleに倒されつつあるようにいずれGoogleを倒す企業が現れるでしょう。

それにしても市場を独占し、巨額の利益をあげたMicrosoftが他社の独占を非難するとは『盗っ人猛々しい』とはまさにこのことです。

投稿: リバタリアン | 2010/08/04 19:50:16

> 独占で問題なのは『市場の寡占』ではなく『参入規制』です。

その違いはなんでしょう?
形式的な自由競争制度を擁護する人からすると、
「参入規制」が信念に合わず、
「市場の寡占」が信念に合っているのいうのは分かります。
しかし、それは個人的な信念の問題でしかないでしょう。

私が言っているのは、
言論の自由という制度上の問題であり、
「将来、競争相手が出るかもしれない」など
ということはどうでもいいのです。
言論の自由という観点から言う限り、
どちらも問題であって、違いなどありません。
参入は自由だけれど、1社が完全に寡占している状態。
参入は規制されることで
5社が独占している状態。
どちらが問題か、
そんな簡単に判断できるでしょうか?

たしかにGoogleに打ち勝つ企業が出てくる可能性はあるかもしれませんが、
その可能性が高いと言える根拠はないと思います。

投稿: 情報学ブログ | 2010/08/04 23:11:45

あと、Microsoftとは全く話が違います。
Microsoftはたしかに市場を寡占しましたが、
あくまで経済の問題でありそれだけであり、
メディアを寡占したわけではありません。

Googleの話と混同してはいけないと思います。

投稿: 情報学ブログ | 2010/08/04 23:16:41

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