ニュース | 2009/08/29
抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)に関し、暴力行為が引き起こされる恐れが否定できないとして使用上の注意が改訂された問題で、厚生労働省は26日、SSRI以外の従来型抗うつ薬の大半にも同様の改訂を指示したと発表した。対象は「クロミプラミン塩酸塩」など12成分を含む13商品。
同省によると、「3還(*1)系」などと呼ばれる従来型の薬で攻撃性が生じたとの副作用報告は、これまでに114件。うち「壁やベッドを壊し、他人に敵意を抱くようになった」などの報告3件について、薬との因果関係が否定できないと判断した。従来型の抗うつ薬は、吐き気やけいれんなどの副作用はSSRIより強いとされるが、攻撃性の報告はSSRIの268件が上回った。
*1 引用者注:環の間違い。
抗うつ薬で攻撃性が高まるということが報道されていますが、これはある意味当たり前のことではないかと思います。
単純に考えて、寝てる時より起きている時の方が攻撃性が高いでしょう?熱にうかされている時(たいてい、一時的な抑うつ状態)より、元気な時の方が攻撃性が高いでしょう?普段は攻撃的な人でも、寝ている時や病気の時は攻撃的ではないケースが多いというのは、誰もが知っていること。攻撃的な性格の人が、うつ状態になっていたとして、それが直って攻撃的になるのはある意味当然のこととも考えられます。
もう少し細かく考えると、抗うつ薬は、うつ病だけではなく、もともと攻撃性の高い類型の病気の人にも処方されるわけです。そういう人が、抑うつ状態で攻撃性が低くなっている状態だったとして、抑うつが解消されれば、攻撃的になるのは仕方ないでしょう。また、抗うつ薬が投与される人の中には、双極性障害と言って、うつ状態と躁状態が交互に訪れる人がいるので、この場合、この場合も、抑うつが消えると、躁状態になり、攻撃的になるケースがあるのは当然です。
たとえて言うなら、抗うつ薬によって攻撃性が高まるというのは、便秘薬を飲んで下痢になりやすくなるのと同じくらい当たり前のことなのです。
さて、これを元に上の記事を見ると、年間260万人中114件(はっきりしているのは3件)というのが非常に低い割合であることが分かります。これは10万人あたりで4.4人になりますが、人口10万人当たりの刑法犯(288人)、凶悪犯(21.0人)と比べてもかなり低いし、短期間しか服用しないタミフルによる異常行動よりずっと低い確率です。したがって、この記事から、「うつ病の人は危ない」というような結論を導くことはできません。もちろん、医薬品情報としては重要なものだと思いますが、うつ病の人への偏見に結びつくようなものではないのです。
しかし、ニュースを普通に読むと、そういうことが分かりません。他の人のコメントを見たら、「そう言えば、うつ病の人って攻撃的な気がする…」とか「うつ病の人に近づくと危ないんじゃないか…」とか言うものがあったのですが、これはかなり見当違いな反応でしょう。しかし、このニュースの書き方ではそういう誤解を与えても仕方ない気がします。
この手の低リスクの副作用情報(添付文書で「まれに(0.1%以下)」と書かれる副作用情報)は、すべての薬についてたくさんあり、常に改訂もされているので、全てを取り上げていたらきりがないでしょう。添付文書の改訂そのものが間違っているわけではないと思いますが、一般向けに発表するやり方としては、あまりにも不用意ではないかと思います。本来なら、事実を発表しただけの厚生労働省は責められなくても良くて、「垂れ流し記事」を書いたマスコミの方が問題とも言えます。まともなメディアなら、専門家の意見でも聞いて、誤解を与えないような記事を書けるはずだと思いますので…。マスコミの能力が低い日本では、政府が頑張らないといけないというところでしょうか。
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ご興味ある方のために添付文書は以下のサイトで見ることが出来ます。
http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html
前回話題になった、SSRIのひとつののパキシルの添付文書は下記にあります。
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/340278_1179041F1025_2_20.pdf
攻撃性がどのように記述されているかを見れば、どの程度のものか分ると思います。
=====以下引用=====
不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、易刺激性、
敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア/精神運動不穏、
軽躁、躁病等があらわれることが報告されている。
=====以上引用=====
他のものと含めて報告がある事にとどめその確率については言及できない程度のものなのです。
報道機関も所詮経済活動なのでセンセーショナルな書き方になってるのは仕方ないのかもしれません。