ニュース | 2008/04/10
全国引きこもりKHJ親の会(奥山雅久代表)の会員を対象に毎年行われている調査で、引きこもり状態にある人の平均年齢が初めて30歳を超えたことが分かった。新たに引きこもりとなる若年層がいる一方で、長期間にわたり引きこもりから抜け出せない30~40代の層が確実に増えている実態が浮き彫りになった。
(中略)
同会の会員を対象とする調査は02年から毎年行われており、平均年齢は02年が26.6歳、前回調査の06年は29.6歳で、上昇を続けている。親の高齢化も進んでいる。平均年齢は父親が63.23歳、母親が58.28歳だった。
引きこもり:平均年齢30歳超す 最年長52歳、目立つ「長期化」--331人調査
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080410dde041040065000c.html
記事では、まるでこの会の会員が引きこもりの全体を代表しているかのような結論を描いていますが、そんなはずはないということくらい、普通に考えれば分かることです。つまり、この調査結果が意味しているのは「この会の会員の高年齢化が進んでいる」ということで、それと「引きこもりの高年齢化」という記事の結論は全くちぐはぐなのです。これは、高校程度の論理的思考能力があれば分かる話です。
同会のホームページでは引きこもりは100万人いると書いてあるのですが、無作為抽出ではない調査で、300名ちょっとしか対象にしていないとすれば、予備的調査としても全く意味がないものです。(統計的には、実際に調査した人数ではなく、どのような母集団から調査対象者を抽出したかが問題)
社会調査の経験がある研究者なら、こんな報告をするはずがありません。この手の報告を行った場合、意識や実態に関する項目は、とりあえず「引きこもり全体を反映している」とみなして良い場合もあるわけですが、年齢のような「調査の条件」に該当する項目に関しては、は、「引きこもり全体を反映しているとは限らない」ということを明記する方が普通だからです。
最初は、当然、全面的に新聞社の責任だと思ったのですが、調べてみると調査をした徳島大学准教授の境泉洋氏が、報告書に「引きこもりの高年齢化」という趣旨のことを書いてしまったことが、そもそもの原因ということが分かりました。どうも、この方は、臨床心理、つまり個別の引きこもりへのカウンセリングが専門であり、社会調査は専門ではなかったようなのです。報告書全体も、「引きこもりについての社会調査」ではなく、カウンセリングの立場から引きこもりについて考察したものでした。つまり、本題とは関係ないところで、軽い気持ちで、「引きこもりの高年齢化」を結論づける文章を報告書に加えたところ、新聞社が本題とは違う部分を記事にしてしまったのではないかと思います。
そういう意味で、今回の記事の問題は、専門外の内容を軽い気持ちで、学術的報告に加えた研究者と、その内容を曲解して記事にした新聞社の両方の責任ということになると思います。新聞社としては、「なんかおかしいな」と思いながら、「何か問題が起きたら、研究者の責任にすれば良い」ということで、おもしろおかしく記事を書いたというのが正直なところではないでしょうか。そういう意味で、新聞社に責任があることは変わらないと思いますが、自分としては自戒の気持ちを込めて、研究者として「脇が甘かった」ということも指摘しなければいけないと思います。
研究者として社会にかかわる上で、気をつけなければいけないことを教えてくれた記事のように思いました。
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