ニュース | 2008/03/18
一橋大大学院に入学した東京都内の佐藤文昭弁護士(34)が、指導教授の授業を一度も受けられなかったとして、同大と指導教授などに入学金や授業料計約239万円の返還などを求める訴訟を17日、東京地裁に起こした。
訴状などによると、佐藤弁護士は2002年4月、同大学院国際企業戦略研究科に入学。修士論文の指導教授の授業を受けようとしたが、この教授は02~04年度に一度も授業を開かず、各学期の初めと終わりに宴会を開いただけだったという。その後も指導を受けないまま、今年1月に修士論文を提出したが、不合格にされたとしている。
一橋大の話「訴状を見ていないのでコメントできない」
「授業なし・宴会だけ」に弁護士、一橋大と指導教授ら提訴
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080317-OYT1T00614.htm
これ、普通の人が見たら大学側が悪いように思うんでしょうか。ただ、文系の大学院の研究指導のシステムを知っていれば、そうは考えない人が多いでしょう。
大学院には、「論文指導」という授業が形式的にあります。これは時間割に組み込まれている場合と、そうではない場合があるのですが、いずれにせよ形式的なもので、実際には決まった時間に「論文指導」が行われるわけではありません。自分で教員にアポを取って指導をしてもらうのです。もちろん、忙しいということを理由になかなか指導してくれない教員はいます。しかし、自分からアポを取らなかった以上、指導してもらえないのは当然です。大学院というのはそういうシステムになっているのです。
教員によっては、このほかにゼミが開いてくれる場合がありますが、これは本質的には論文指導とは別ですので、開かれない場合もあります。これに関しては、教員の自由ですので「1年に2回の宴会だけ」というケースがあっても不思議ではありません。
ただ、複雑なのは、こうした大学院のシステムは、特に明文化されていないということです。したがって、悪意を持った大学院生はそのことを理由に大学を訴えることもできるのかもしれません。ただ、自分でアポを取って指導を受けるというのは、大学院では「常識」であり、明文化されていないからといって、訴えるのは反則ではないか…というのが、ごく普通の大学院生が考えることではないかと思います。
さて、ニュースですが、この弁護士、自分からアポを取って指導を受けようとしなかったにもかかわらず、論文が不合格になったことを逆恨みして、大学側を訴えたのではないかという気がします。普通なら、訴えようとしても弁護士に説得されてあきらめるようなケースだと思いますが、本人が下手に弁護士の資格を持っていたために、それがそのまま訴訟につながってしまったのでしょう。
大学側が気の毒で仕方ありません。
○追記(4/3)
2ちゅんねるで以下のようなコピペされた文章を見つけました。ご本人だという保証はありませんが、問題にされているのが「論文演習」であるなど、具体的な情報が含まれているおで参考になります。
書き込みがご本人のものであるかどうかを別にして、事実関係だけでも正しければ、上に書いた自分の議論は基本的には正しかったことになると思われます。たしかに、システマティックな論文指導が行われていない(もちろん、行っているところはあるが、制度上、行うようになっていない)というのは、今の日本の文系大学院の構造的な問題と言えると思うのですが、損害賠償や設置認可処分取消を求めるような問題かは疑問です。
507 名前:佐藤文昭[] 投稿日:2008/03/19(水) 21:51:43 ID:ui6RYYS40
訴えた当人です。盛り上がっていただきありがたく思います。
私の修士論文のレベルについては「低い」という前提でいていただいて結構です。
学部で論文なんて書いたことないのですから、そのレベルから論文を書けるレベルまで引き上げることが大学設置基準で修士課程に求められています。
そこで「論文演習」(通年4単位)という科目があるのですが、これがまったく開講されず単位だけ与えられたという事案です。
論文は、期限の3ヶ月前に指導教授にメールしました。ほとんど無反応でした。
授業料の返還請求ばかりが報道されていますが、これは訴訟の枝葉末節部分で、
本筋は大学設置基準に基づく国際企業戦略研究科の設置認可処分取消訴訟です。539 名前:佐藤文昭[] 投稿日:2008/03/19(水) 22:54:26 ID:ui6RYYS40
原告適格を問題視されているんだと思いますが、そこはたしかに一番主張が困難なところだと思っています。
ちなみに、私が司法試験に受かったときは処分庁が被告だったので、文部科学大臣を被告にして訴状を出そうとしたのですが、
事件受付で行政事件訴訟法で被告適格が17年に大幅に変わったことを教えられて、被告を国にして出しなおしました。
司法試験に受かると、その後の改正はフォローしなくなりますから、ローに行きなおしたほうがいいかもしれません。
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自分は理系→文系に移った人間なので、理系の研究室の事情も知っているのですが、理系と文系では全く違いますね。
自分の所属している研究室はゼミがあるのですが、ない研究室もあるようです。いずれにせよ、論文指導のためには自分からアポを取るのが原則です。
本文でそのあたりの違いは書かなかったのは、失敗したかな…と思いますが。後で追記しておきます。
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トラックバックありがとうございます。
>ただ、自分でアポを取って指導を受けるというのは、大学院では「常識」であり、明文化されていないからといって、訴えるのは反則ではないか…というのが、ごく普通の大学院生が考えることではないかと思います。
文系の研究室の常識でしょうか。
私は理学部所属ですが、私が修士を過ごした研究室でも、今の勤務先でも、
・開講科目リストがあって、学部の授業と同様に講義を時間割通りに行う
・講義意外に研究室ごとの文献購読(ゼミ)がある。週1回程度、定期的に集まって行う。
・さらに、特別研究がある。これが修士論文の研究になる。研究室によって千差万別だが、打ち合わせをしながらでないと研究を進めること自体が不可能なので、不定期に様子を見て議論するし、問題があれば院生の方も質問に来る。
・課程の終わり頃に修士論文をまとめる。結果が既に出ているので、主に書き方の指導をする。文献が足りないとかお作法を守れといったことが指導の内容になる。
という具合です。放置プレイなんかあり得ません。
博士後期では、社会人大学院生も居ましたが、週のうち研究室に居る日を決めたりして、実験していました。ゼミは定期的にありましたが、可能な限りその日は居るようにしていたようです。工学系の研究室でした。さすがに、博士後期では、受けなければならない講義はありませんでしたが……。
どうも、理系と文系で大学院の指導の常識が著しく異なるようですが、どうなんでしょう?