情報とコミュニケーションの「場」―久間防衛相辞任に寄せて

情報学/経済・政治・国際 | 2007/07/03

ものごとにはさまざまなとらえ方があります。そして、そのうちどれが正しいと言えるようなものではありません。たとえば、犯罪の被害者にあった方がいたとします。それに対して「しょうがない」という見方をすることもできるでしょう。原爆投下だって「しょうがない」という見方をすることもできます。それは必ずしも間違っていると言えるものではないと思います。これは、「情報は観察者とともに立ち現れてくる」という情報についての一般理論の一つの例とも言えます。

ただし、それぞれの状況で適切な発言とそうではない発言というのはあります。うちの師匠が良くたとえに使うのですが、重要な真理を書いた論文を郵便局で郵送するとき、「これは非常に大事な論文なので、しっかり送ってください」と言う人はあまりいないでしょう。これは間違いとは言えないでしょうが、適切ではない発言の例です。

これと同じことは、先ほど挙げたような例についても言えます。夜道を歩いていて襲われた被害者に関して、「危ない場所歩いてるから、襲われるのもしょうがない」というのは、考察として正しいかもしれません。たしかに「そういう見方ができる」のは事実です。しかし、被害のショックから立ち直れない人に対して、不用意にそういうことを言うのなら、言った人は人格を疑われることになるでしょう。

言うならば「我々は過去の知識の集積の上に立脚して、それと不可分に生きている」。私たちは、こうした歴史性を無視して、発言したり、思考したりするわけには行かないのです。一般に、私たちのコミュニケーションは言語、一般常識、教養…といったもの(広義の規範)に支えられて初めて成り立っており、それぞれの「場」に応じた規範にしたがって、コミュニケーションがなされています。つまり、情報のとらえ方にはさまざまなものがあるが、特定の「システム(場)」においては、許される発言、許されない発言の違いが生まれてくるということです。ショックから立ち直れないでいるような犯罪の被害者の前で、不用意に「襲われるのもしょうがなかった」というのが(論理的には正しいにもかかわらず)許されないのは、このためだと言えるでしょう。

久間防衛相の発言は、こうした立場から考えることができるでしょう。原爆投下が「しょうがない」というのは、(背景にある彼の歴史認識の問題を別にして)十分ありえる見方だと思います。一般に言えば、「しょうがない」というのは、「何らかの事象を意図的に無視する」ことに導かれる結論であり、あらゆる問題について「しょうがない」という指摘ができるからです。

しかし、それはあくまで一般的な議論としての話であり、政治家として、さらには防衛大臣としての立場を考えると、話は別です。政治という「場」では「国民感情」を考慮しなければいけないのは言うまでもありません。そして、それができない政治家は退場を迫られて当然だからです。

ご存じの通り、日本の国民は、原爆についての被害者意識を強く持っており、その中で「唯一の被爆国」としてのアイデンティティが形成されてきました。これは政治的スタンスにかかわらず、多くの国民が共有する感情ではないかと思います。こうした中、「原爆はしょうがない」という発言をすれば、批判を浴びるのは当然なのです。親や兄弟を原爆でなくした人。さらに、そうした歴史を語りついできた多くの日本人にとって、「許されざる発言」として感じられたのは仕方ないことだったでしょう。

要するに、今回の発言の場合、発言の正当性そのものというより、「政治家」として、「防衛大臣」としてコミュニケーションの「場」にふさわしくない発言だったからこそ、これだけ批判されているのだと思います。下世話な言葉を使えば、「場の空気を読めない」という政治家としての致命的な欠点を抱えているのが、久間防衛相(そして安倍内閣の閣僚たち)なのです。そして、そういう意味でも今回の退任はしょうがないことだったのではないかと思います。

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ちなみに、日本という国が、「反戦」でまとまったのは、何十年ぶりのことだったでしょうか。もし、今回の事件が「戦争翼賛政治」の方向性を転換するために意図的に行われたパフォーマンスだとしたら…。この人は、後から見たとき、日本を戦争から救った歴史上のヒーローになる可能性があるかもしれません。妄想でしょうか。

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