少子化と子育ての価値観

経済・政治・国際 | 2009/03/17

社会人向けのWEBマガジンサイト『ヨルコ×ヨルタ』を運営するサイバーマップ・ジャパンは16日(月)、社会人男女を対象にした"婚活"の調査結果を発表した。同調査によると"婚活に必要なもの"は、男女ともに「積極性」(女性41%、男性42%)がもっとも多かったが、女性の次点が「時間」「運」(ともに13%)なのに対し、男性は「お金」(24%)という回答がランクイン。なかには「仕事がこの不景気で給料も安く、結婚するにもそれがネックで踏み切れないのが現状」という切実な声もあり、先行き不透明な景気不安が、男性の婚活心理に影響を与えていることが垣間見える結果となった。

男性の婚活、"経済力"が心理的重圧に

自らの「経済力」を理由に結婚したがらない男性が多いというのは良く言われる話です。この背景には、女性が結婚相手の男性に経済力を求める傾向があるということがあるでしょう。そのために、男性からすると、「お金がないと相手に高い条件を求めることができない」ということになってしまうのです。

これは、現実としては当たり前のように思うかもしれませんが、理由を考えると意外に不思議ではないでしょうか。「お金なんてなくても結婚できるじゃない」という見方もできるからです。Beckerのモデルによると、結婚は共同生活によって、生活コストを下げるためのものとして理解されます。そうだとしたら、社会全体として低所得な男性が増えたとしても、結婚市場の需要と供給のバランスで、男性に要求される所得の水準が低くなるだけであり、それが初婚の遅れを招くことはないはずでしょう。

要するに、今日の晩婚化、少子化は、Beckerのモデルに基づく自由な「結婚市場」を想定することでは理解できないのです。では、結婚市場において市場原理を妨げる要因とはなんでしょうか。もちろん文化的な要因を挙げればきりがないでしょうが、経済的な問題に絞れば、「養育に関する価値観と現実のギャップ」が重要な問題として挙げられるのではないかと思います。

今の日本では、教育を義務教育まで、食費や被服費など最低限で済ませれば、二人の大人の所得で一人や二人の子どもを育てるのは無理なことではありません。そして、それでも問題ないという価値観を持っている人(これはおそらく、親の学歴や社会階層に依存します)であれば、結婚をためらう理由はあまりないでしょう。

しかし、多くの中流階級の人々は、自ら、最低でも「ホワイトカラー正社員」以上のステータスを持つ仕事に就きたいと考え、自分の子どもにも同様の条件を満たした仕事をさせたいと考えています。ところが、今の日本で、子どもを大学に行かせて、それなりの評価を受けた大学に行かせようとすると、子どもを育てるのに必要な経済力は非常に高いものになっています。公立の小学校・中学校のみの場合と比べ、私立中学・高校、大学の学費、これに塾などの費用を加えただけで、最低一人当たり100万円/年の増加は避けられなくなるでしょう。しかも、今の日本では、親の世代(20代~30代)でさえ、「ホワイトカラー正社員」以上のステータスの仕事に就くのは簡単ではなく、厳しい競争に晒されています。こうした状況で確実に「ホワイトカラー正社員」以上の仕事ができるような教育を施そうと思ったら、必要な投資は莫大なものになってしまうのです。

つまり、「ホワイトカラー正社員以上の仕事をして一人前」という価値観を持った「中流」意識のある男女にとって、結婚相手は、この条件を満たす経済力を持っている相手に限られることになるわけですが、多くの人がそれだけの経済力を手にしていない。ここに少子化・晩婚化の原因があるのではないかと思います。

ではどうすれば良いのでしょうか。二つの解決策があると思います。一つは、「追加の教育投資をしなくても、本人の能力を活かすような教育を受けられる」ようなシステムを構築すること。もう一つは、「ホワイトカラー正社員」でなくても、安定した生活ができるような社会保障システムを構築することです。いずれにせよ、社会福祉の充実こそが、晩婚化・少子化を食い止めるために必要だということになります。今回取り上げた話は、厳密に言えば「こういう側面もあるのではないか」という仮説であり、実証的な議論ではありませんが、「少子化」の問題が、一般に思われているよりも複雑な議論だということは分かるのではないかと思います。

さて、少子化の問題には、別の複雑な問題が関係しています。純粋に日本企業の国際競争力の向上を考えるのであれば、理論上は、「移民や短期労働者を受け入れ、少子化はそのまま、福祉もそのまま」という社会が一番優れているということになるでしょう。しかし、それはあたかも人間が経済活動の手段となっているような世の中。目的と手段の関係を逆転させているような気がしてなりません。「結婚をしたい人が結婚をできる」「子どもを産みたい人が子どもを産める」ようにすることは、単に少子化を解決するためだけではなく、「人間が人間らしく生きられる社会」を作っていくためにも必要ではないかと思うのです。

自分には、こうした複雑な問題を解きほぐして全て解決するだけの知識も能力もありませんが、間違いなく言えるのは―多くの社会の問題がそうであるように―少子化の問題はまさに「価値観の問題」だということではないでしょうか。

○参考記事

[日記]高学歴女性の未婚問題/pal-9999の日記

○関連記事

秋葉原通り魔事件と負け組とニートと/情報学ブログ
→「ホワイトカラー正社員」という価値観の問題について、少し前に書いた記事で、この記事の内容と深く関係しています。

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