社会調査演習TIPS(量的調査編)

情報学 | 2007/05/17

この記事とは直接関係ないのですが、「大妻女子大学」の検索でたどりついた方には、以下の記事も読んでいただきたいと思うので、最初に紹介させてもらいます。

女子教育とパノプティコン―校訓「恥を知れ」に寄せて
http://informatics.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_9d4d.html

一つ前の記事で書いたように、TAとして社会調査(量的調査)の演習を担当しています。社会調査は全く専門ではないのですが(というかだからこそ)、自分自身の向学のためにポイントをまとめさせてもらいました。良くも悪くも社会学に対してそれほどこだわりのない自分が、「学生に課題をすみやかにまとめさせる」ことを目的にまとめたものなので、類似の科目を履修している学生さん必見(笑)???

ちなみに、TAをするようになった経緯についてはこちらを参照してください。

なぜか大妻女子大学でTAをしています
http://informatics.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_f03d.html

○量的調査の結論と目的

量的調査の直接的な結論は、

「AであるほどBである」

というようなものです。これをもとに、

「AがBの要因になっている」

という最終的な結論を導くのです。さらに、この結論をもとに、批評、提言などを行うことが、調査の目的と言うことができると思います。

たとえば、収入と結婚についての調査では、直接的には、

「収入が高いほど、結婚相手に収入を求める傾向にある」

という結論を導いて、そこから

「収入は、結婚相手に収入を求めることの要因になっている」

という最終的な結論を導きます。

(調査の目的によっては、他のパターンもあるわけですが、とりあえずここでは扱いません。)

○独立変数と従属変数

「AがBの要因になっている」

というとき、Aを独立変数、Bを従属変数と言います。ここで、AやBは、調査票の質問項目に対応するものです。

たとえば、「収入はどのくらいですか?」という質問と、「結婚相手にどの程度の収入を求めますか?」という質問をし、4分割のクロス表を作ります。

たとえば、

収入がyy円以上 収入がyy円未満
結婚相手に対してxx以上の収入を求める ×
結婚相手に対してxx以上の収入を求めない ×

ここで、○が多く、×が少なければ、

「収入が高いほど、結婚相手に収入を求める傾向にある」
だから、「収入は、結婚相手に収入を求めることの要因になっている」

というような結論を導かれます。逆に、○が多く、×が少なければ、

「収入が少ないほど、結婚相手に収入を求める傾向にある」
だから、「収入の少なさは、結婚相手に収入を求めることの要因になっている」

というような結論を導かれるでしょう。このとき、「収入」が独立変数であり、「結婚相手に収入を求める」という意識が従属変数になります。

○仮説

調査票を設計するためには、

「AがBの要因になっている」

という「仮説」がないといけません。仮説を踏まえて、「何を聞くか」ということを決めます。

○因果関係の整理

本来、仮説は、調査を始める段階で明確になっていなければいけないわけですが、漠然としたテーマを設けて調査を行う場合のように、仮説自体を考えなければいけない場合も少なくありません。この場合、「仮説を考える」という作業が意外に難しいのです。というのも、多くの質問項目は、独立変数(A)にもなれば、従属変数(B)にもなるものだからです。たとえば、「ネットへのアクセスの頻度」という項目を考えます。

「収入がネットへのアクセスの要因になっている」
(収入が高いほど、ネットへのアクセスが多い)

という仮説も考えられますが、一方で、

「ネットへのアクセスが友人を増やす要因になっている」
(ネットへのアクセスが多いほど、友人が多い)

という仮説も考えられるでしょう。実際には、もっと複雑に入り組んでいるはず
です。

ただし、

「ネットへのアクセスは年齢増加の要因になる」
(ネットへのアクセスが多いほど、年齢が高くなる)

という仮説は明らかにおかしいものでしょう。要するに、独立変数と従属変数の組み合わせとしては何を選んでも良いというわけではありません。独立変数になりえる項目と、従属変数になりえる項目は、それぞれ一定の範囲に限定されるのです。

○因果関係と相関関係

量的調査で、得られる結論は直接的には、「AであるほどBである」というものであり、これを「相関関係」と言います。これに対し、「AがBの要因になっている」というのを「因果関係」と言います。因果関係があれば、そこには必ず相関関係が見いだされるのですが、相関関係があったからと言って、必ずしも因果関係があるとは限りません。

これには大きく二つのケースがあるでしょう。たとえば、収入が高いほど、本を良く読むというデータがあったとします。この場合、収入が高いことが、本を読むことの要因になっている可能性もありますが、本を読むことが、収入が高いことの原因になっているかもしれません。つまり、AとBの相関関係があったとき、AがBの要因になっているのか、BがAの要因になっているかという「因果関係の向き」については分からないのです。

一方、学歴が高いほど、収入が高いというデータがあったとします。この場合、最終学歴に相当する学校を卒業してから仕事を始めるのが普通なので、収入が高いことが、学歴が高いことの要因になっているとは考えられません。では、「学歴が収入の要因になっている」という結論が絶対に間違いないかというと、そうでもないのです。実際には、「親の収入→学歴」、「親の収入→本人の収入」という関係があり、本人の収入の要因が、親の収入なのか、学歴なのかということを、この調査だけから知ることはできません。

KJ法などを使って調査項目の因果関係を整理する時には、こういった因果関係と相関関係の違いを意識することが重要です。たとえば、意識項目と意識項目の間に因果関係があるという仮説を考えることはできますが、この場合、相関関係を示すことおができても、どちらが独立変数(原因)でどちらが従属変数(結果)かという因果関係ことを知るのは不可能になります。

したがって、社会調査に当たっては、初めから明確に予想されるような因果関係に注目して、仮説を立てないといけないわけなのです。これは、意外に難しいことです。

○ベース/フェイス項目と意識項目

調査票の質問項目の中で、年齢、性別、収入、出身地など、回答者についての基礎的なデータをベース項目と言います。この多くは、原因(独立変数)にしかならないものです。このほか、その調査の性格上、「原因」として扱う項目をフェイス項目と言います。ベース項目やフェイス項目は、原因(独立変数)と考えて良い場合が多いのですが、先ほど例を出した「収入」の例(本人の収入が親の収入の従属変数になっている)のように、意外な落とし穴も少なくありません。したがって、慎重に扱う必要があります。

一方、「~○○という意識を持っている」という形式の項目を意識項目と言うのですが、意識項目は、基本的に、結果(従属変数)にしかなりません。

実際には、多くの項目が、独立変数(原因)にもなれば、従属変数(結果)にもなって、因果関係は入り組んでいます。これを整理する作業が大変なのです。

○KJ法

こうした因果関係を整理するのに良く用いられるのがKJ法です。KJ法は本来、さまざまな状況で一般的に使えるように考え出されたものですが、量的調査における因果関係の整理に応用する場合、次のようにすれば良いでしょう。

質問項目に対応する内容をカードに書いておき、因果関係の中で似ている位置づけになりそうなものをグループ化します(重ねないで横に並べる)。そして、原因(独立変数)から結果(従属変数)に向けて矢印を引くわけです。このとき、ベース項目/フェイス項目や意識項目は、最初に分けておき、一番上と一番下など、離れた場所に置いておくと良いと思います。

このようにして、最終的に、項目の因果関係についての図表(ダイアグラム)を作るわけです。

○社会学と情報学

さて、意識項目は従属変数にしかならないということを書いたと思うのですが、納得できたでしょうか?とりあえず知識として覚えれば、演習そのものは問題なくできると思うのですが、本来、これは、そんなに当たり前のことではないのです。これは、このブログのテーマである「情報学」と深く関係することなので、簡単に触れたいと思います。

社会調査で、意識項目が従属変数として扱われることは、社会調査の限界および社会学という学問の成り立ちと深く関係しているものです。

というのも、理屈の上では、意識項目は原因(独立変数)とみなすこともできます。たとえば、「~という意識を持っている」ことによって、別の意識が形成されるというような仮説を考えることはできるでしょう。しかし、このような仮説の場合、両者の相関を示すことができても、本当に因果関係があるということを立証するのは、絶対と言って良いほど無理なのです。たとえば、Aという意識がBという意識を作っているという仮説を立てたとします。かりにAとBに高い相関が見られたとしても、AがBの要因になっているということを示すのは困難です。BがAの要因になっているかもしれないし、別の項目Cが、AとBの両方の要因になるかもしれないからです。したがって、社会調査で意識項目を、独立変数(原因)とするのは事実上不可能なのです。これは、論理的にその仮説がありえないということではなく、統計的な調査の限界とも言えるものです。

そういうこともあって、社会学では、基本的に、「人間の意識が社会によってどのように作られているか」という問題設定をします。これは、「意識」が常に「従属変数」として扱われるもう一つの理由です。社会学の主流派の学問では、意識が意識を形成するということには注目せず、注目しない以上、そういう調査もしないわけなのです。

ただし、意識が意識を形成するというような関係は、少なくとも個人のレベルでは間違いなく存在しています。そして、これは社会の問題としても、完全に無視することができるとは思えません。

これについて正面から立ち向かうのが、社会学の中では社会システム論と言われている分野であり、大きく言えば、「システム」や「情報」についての学問=情報学だと言うことができます。システム論や情報学は、「情報と情報の関係性をとらえることができない」ということを出発点にし、その中で人間や社会がどのようにできあがっているかを考えるものです。私たちは「意識が意識を形成する」という関係をとらえることができないが、それでもその関係の中で人間や社会が存在しているということに注目するのです。

こういった「情報」の視点は、社会のさまざまな場面で必要になってくる重要なものなので、興味がある人には詳しく勉強してほしいと思います。ただ、これは逆に言えば、量的調査では「意識が意識を形成する」というような議論を、扱えないということを示しても言えるわけです。

いずれにせよ、「意識項目は従属変数にしかならない」というのが、学問的に深い内容と関係しているということが分かると思います。

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